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名古屋地方裁判所 昭和34年(行)26号 判決 1966年2月08日

岐阜市加納寿町一丁目三番地

原告

岐阜巣糧工業株式会社

右代表清算人

伊藤秀治

右訴訟代理人弁護士

宋寿竹

沖賢翠

被告

名古屋国税局長

奥村輝之

右指定代理人

林倫正

加藤利一

山本義雄

赤祖父宗重

下山善弘

川村俊一

神戸正夫

右当事者間の昭和三十四年行第二十六号法人税更正決定取消請求事件について当裁別所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

一、原告の申立

(一)  岐阜南税務署長が為した原告の昭和二十五年一月一日から同年六月三十日まで、及び同年七月一日から同年十二月三十一日までの各事業年度の法人税の更正処分に対し原告が為した審査請求につき、被告が昭和三十二年十月九日為した審査請求棄却の決定を取消す。

(二)  岐阜南税務署長が原告の昭和二十五年一月一日から同年六月三十日までの事業年度の法人税を金二十三万四千三百六十円と決定したうち金五万二千三百円を超える部分を取消す。

(三)  岐阜南税務署長が原告の昭和二十五年七月一日から同年十二月三十一日までの事業年度の法人税を金三十八万二千八百三十円と決定したうち、金五万三千六百円を超える部分を取消す。

(四)  訴訟費用は被告の負担とする。

二、被告の申立

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者双方の事実上の陳述

一、請求の原因

原告は製菓業を営み、経営難のため昭和二十七年五月十五日解散したものであるが、岐阜南税務署長は原告の昭和二十五年一月一日から同年六月三十日までの事業年度(以下第一係争事業年度という)の利益金を金六十六万九千六百円と認定の上、金二十三万四千三百六十円の法人税を、又同年七月一日から同年十二月三十一日までの事業年度(以下第二係争事業年度という)の利益金を金百九万三千八百円と認定の上、金三十八万二千八百三十円の法人税を、いずれも同二十六年十月三十一日賦課決定し、その頃右各決定は原告に送達された。然しながら原告の第一係争事業年度の利益金は金十四万九千五百円で、その法人税は金五万二千三百二十円であり、又第二係争事業年度における利益金は金十五万三千二百円でその法人税は金五万三千六百二十金である。そこで原告は被告に対し右各決定につき審査の請求をしたところ、被告は昭和三十二年十月九日右請求を棄却する旨の決定をなし、右決定は同年十二月十四日原告に送達された。右は不法に利益を認めた決定であるからこれを取消し、更に請求の趣旨(二)(三)の通りの判決を求める。

二、請求の原因に対する答弁

(一)  岐阜南税務署長が原告主張のような決定をし、該決定がその主張の日時に原告に送達されたこと、原告が製菓業を営んでいたこと及び解散したことは認める。但し、解散事由は知らない。

(二)  昭和三十二年十月九日棄却の審査決定がなされ該決定が原告に送達されたことは認める。(但し送達は同年十二月二十四日にされた)

その余の事実は争う。

三、被告の主張

(一)  課税処分の経緯

原告は岐阜南税務署長に対し昭和二十五年八月三十一日に第一係争事業年度の法人所得金額を十四万九千五百円として、昭和二十六年二月二十八日に、第二係争事業年度の法人所得金額を十五万三千二百円として、それぞれ法人税の確定申告をした。

そこで同署長が前記確定申告にもとづき調査した結果、右申告における所得金額には脱漏があることが判明したので、昭和二十六年十月三十日付で原告の所得金額を第一係争事業年度については六十六万九千六百円と、第二係争事業年度については百九万三千八百円とそれぞれ更正し、原告にその旨通知した。

原告はこれを不服として同年十一月二十四日同署長に対し再調査の請求をなし、同日受理されたが、法人税法第三十五条第三項第二号の規定により審査の請求とみなされた。そこで被告が前記審査請求にもとづき原告の所得金額を調査したところ、原告の第一及び第二係争事業年度の所得金額次のとおりいずれも岐阜南税務署長の更正した所得金額を上廻つていることが判明したので棄却の審査決定をなし、昭和三十二年十月九日付で原告にその旨の通知をした。

(二)  課税処分の根拠

(1) 第一係争事業年度の申告所得金額十四万九千五百円右金額に加算したもの

(イ) 減価償却超過金 五千九百六十二円

右内訳{a 土地 五百四十円

b 工具 二千七十六円

c 機械 二千四百六十円

d 備品 八百八十六円

a原告は帳簿価額三万五十一円の土地について当期五百四十円の減価償却をしているが、土地については法人税法(以下単に法という)上減価償却は認められない。

b、c、dは原告が法第九号の八の規定により計算した減価償却範囲額を超過して損金に計上した超過額である。

aにつき原告は五百四十円は土地借入権利金三万二千四百円の六十分の一を計上したものであると述べているが、以下これを反論する。

原告の甲第一号証(第一係争事業年度分)の

(い) 十一枚目裏の財産目録によれば

<省略>

(ろ) 五枚目表の貸借対照表によれば

<省略>

となつている。

原告の甲第二号証(第二係争事業年度分)の

(は) 十一枚目表の財産目録によれば

<省略>

(に) 十四枚目表の償却費計算書によれば

<省略>

(ほ) 五枚目表の貸借対照表によれば

<省略>

となつている。

右の(い)(ろ)(は)(に)(ほ)により、原告は建物の所有を目的とする賃借権(借地権)を取得していることがわかるのであり、賃借権の取得後、借地上に建物の建築その他工場の設備をするに際して必要な土地の整地費として、右(い)の取得金額たる三万二千三百九十一円五十銭の支出をしたことが推察できるのである。

法人税法上は、土地及び土地の上に存する権利は、減価償却を認められていないのであるから、耐用年数を三十年と仮定し、決算期(半年)ごとに、その取得価額の六十分の一ずつを減価償却している原告の計算は妥当なものとは認められない。したがつて被告がこれを否認したことは相当である。

(ロ) 源泉徴収加算税 二万七千七百四円

原告は納付した源泉徴収加算税を仮払金に計上しているので法第九条第二項の規定により否認したものである。

(本項(ヌ)仮払金で同額を減算しているから実質的には所得の増減はない)。

(ハ) 当座預金洩 十二万七千二百十八円

原告は訴外株式会社十六銀行加納支店(以下単に訴外銀行という)当座預金期末(六月三十日)残高を一万六千七百六十八円九十銭の赤字として貸借対照表負債之部に記載している(甲第一号証五枚目)。

しかし訴外銀行の原告名義当座預金の期末残高は二十八万三千三百四十円七十八銭である(乙第七号証末尾参照)。

そして原告の帳簿上第一係争事業年度中に支払記帳してある振出小切手で、訴外銀行の支払記帳が翌事業年度になつているものの合計は十七万二千八百九十一円二十銭である。

従つて左の計算により十二万七千二百十八円(円未満切捨)は当座預金洩となる。

283340.78円-172891.20円+16768.90円=127218.48円

(ニ) 仮払金洩 二十一万五千円

(ホ) 未払金不当 二十二万九千七百八十円

右内訳{a 工賃 七万円

b 電力代 六万円

c 訴外岐阜糖業株式会社に対する未払金過大計上 四万二千九百八十円二十四銭(円未満切捨)

d 訴外富士工業研究所に対する未払金過大計上 五万六千八百円

a、bはいずれも翌期(第二係争事業年度)七月に発生する費用の予定見積額で、かつその具体的支払義務は翌期に確定するものである。

c原告は期末現在前記訴外会社に対する未払金三十八万五千五百三十九円十銭と記帳しているが、当時の未払金在高は三十四万二千五百五十八円八十六銭であるから、その差額四万二千九百八十円二十四銭は過大計上である。

d原告は前記訴外研究所に対する未払金五万六千八百円と記帳しているが、当時そのような未払金は全然なかつたものである。

右(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)の合計 六十万五千六百六十四円

申告所得金額から減算したもの

(ヘ) 未納利子税 千九百二十九円

(ト) 積立金 一万円

(チ) 棚卸繰入認容 一万二千九百六十九円

(リ) 未納事業税 一万五千四百五十円

(ヌ) 仮払金 二万七千七百四円

右(ヘ)(ト)(チ)(リ)(ヌ)の合計 六万八千五十二円

差引合計所得金額 六十八万七千百十二円

149500円+605664円-68052円=687112円

(2) 第二係争事業年度の申告所得金額十五万三千二百円右金額に加算したもの

(イ) 法人税 四万四百六十円

右は法第九条第二項の規定により損金に算入すべきではない。

(ロ) 減価償却超過金 千百六十一円

右内訳(a 土地 五百四十円

b 工具 六百二十一円

右は原告会社が法第九条の八の規定により計算した減価償却範囲額を超過して損金に計上した超過額である。なおaについては(1)の(イ)参照。

(ハ) 源泉徴収加算税 三千四十円

右は法第九条第二項の規定により損金に算入すべきではない。

(ニ) 未経過利息 五千四百五十五円

原告会社の貸借対照表によれば

a 原告会社が訴外銀行から借入れていた金額は

第一係争事業年度末においては百六十五万円(甲第一号証五枚目表)

第二係争事業年度末においては百五十万円(甲第二号証五枚目表)である。

b 右の借入金に対する未経過利息は

第一係争事業年度末には一万九百二十円(甲第一号証六枚目表)

第二係争事業年度末には零(甲第二号証に何等の記載もない)

となつている。

これに対し被告の調査によれば、第二係争事業年度末に原告が訴外銀行から借入れていた金額は左のとおりである。

<省略>

従つて、原告の甲第二号証八枚目裏の銀行借入金明細書は誤りである。

右の表によれば、未経過利息計算の基礎となる未経過日数は

<1>については十五日間(一月一日から同十五日まで)

<2>については十五日間(一月一日から同十五日まで)

<3>については二十五日間(一月一日から同二十五日まで)

銀行が手形貸付を行う場合には通常貸付利息を天引くことになっているから、右の手形借入に対する利息も、借入月日から支払期日まで所定の日歩により計算した金額を天引されているはずである。

法人税法による各事業年度の所得の計算を正確に行うためには、翌事業年度に属すべき経費は除外計算すべきであるから、右の手形借入の際に支払つた利息のうち翌事業年度の日数に対応する分は未経過利息として繰り延べすべきである。

右により計算した未経過利息は

<1> ついて 千三十五円

<2>について四千九十五円

<3>について三百二十五円合計五千四百五十五円

となる。

(ホ) 仮払金 二万七千七百四円

右は、第一係争事業年度(ヌ)において納付した源泉徴収加算税を仮払金に計上したので減算したものを当期納税引当金と振替経理したものである。

(ヘ) 定期預金洩 八十二万五百八十七円

右は、原告会社の帳簿に計上洩の定期預金であつて、その内訳は次の通りである。

{訴外銀行預入れ 寿禄定期預金 三十万円

〃 〃 五十万円

定期預金 二万五百八十七円

(ト) 仮払金洩 五十六万六百八十一円

右内訳

a 昭和二十五年十二月三十日 十二万六千円仮払金計上洩

b 同年九月一日 十三万円、同年同月同日 七千円、同年十月二十三日 二十万円

右支出についてはその使途が不明であるから仮払金とする。

c 同年八月三十一日 千六百七十四円

九月三十日 千五百九十三円

十月三十日 千四百三十四円計四千七百円

原告は右金額を支払利息として損金に計上しているが、その基本債務が存在しないから経費に計上すべきではない、

d 前期末の架空未払金を当期支出とした仮払金 四万二千九百八十円

右は前項(ホ)のcで述べた訴外岐阜糖業株式会社に対する架空未払金を当期支出としたもの(後段(タ)により同額減算)。

e 同年十二月三十日 三万円 立替金の入金洩につき仮払金とする。

原告の甲第一号証(第一係争事業年度分)の九枚目の仮払金明細書によれば

<省略>

となつている。

原告は昭和二十五年十月三十日に右の三万円の払戻を受けて取引銀行に入金したように記帳しているのであるが、被告の調査によれば、訴外銀行の取引口座たる原告名義の当座預金に入金していないので、誰かに対する仮払もしくは貸付となつたものと推定した。

f 同年九月二十二日 二万円

訴外富士工業研究所より紙袋の仕入代金の支払と記帳しているが、架空の取引であるから仮払金とする。

(チ) 支払手形不当 十五万七千七百八十五円

右内訳

a渡辺芳一に対する支払手形 十万一千八十五円

b富士工業株式会社に対する支払手形 五万六千八百円

aについて、原告の帳簿(仕訳帳)には、訴外渡辺が、九十数回にわたつて原告のために立替えた経費等を支払うために、昭和二十五年十二月三十日付で十万一千八十五円八十七銭の手形を同訴外人宛に振出した旨の記載がある(乙第十四号証)が、被告の調果によれば、原告は第二係争事業年度において、原告の負担すべき経費を九十数回にわたつて同訴外人が立替えなければならないような経済状況にはなかつたのであつて、別途売上からその都度支払済であるのに、同訴外人が立替え支払つたように仮装して支払手形を振出したものであると認められるのである。

bについては(1)(ホ)、dで被告が否認した第一係争事業年度における未払金の過大計上分を第二係争事業年度において支払手形に振替えたものであると認められる。

右(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(チ)の合計 百六十一万六千九百七十三円

申告所得金額かな減算したもの

(リ) 未納利子税 一万三千二百二十九円

(ヌ) 減価償却超過認容 二千六百十二円

(1)の(イ)で述べた減価償却超過に対応する減価償却費を法第九条の八の規定により計算した当期認容額

(ル) 積立金 五千円

(ヲ) 未納事業税 八万三百五十円

(ワ) 税金引当金 六万八千百六十四円

(カ) 当座預金過大計上 十一万三千八百四十九円

(ヨ) 当座預金繰入認容 十二万七千二百十八円

(タ) 未払金繰入認容 二十二万九千七百八十円

(レ) 棚卸繰入認容 二万六千七百五十二円

右(リ)(ヌ)(ル)(ヲ)(ワ)(カ)(ヨ)(タ)(レ)の合計 六十六万六千九百五十四円

差引合計所得額 百十万三千二百十九円

153200円+1616973円-666954円=1103219円

原告の所得金額は以上述べたとおりであつて、被告のなした前記棄却の審査決定には何らの違法もなく、原告の請求は失当である。

(三)  原告の反対主張に対する再反駁

(1) 原告は訴外高井精司の横領等によつて百数十万円の被害を受けたと主張する。被告は、右訴外人により横領、費消又は使途不明にされた金員があつたことは認めるが、その部分は原告会社の利益金を横領、費消又は使途不明にしたものである。

ところで高井精司は、原告主張のとおり、当時原告会社の取締役の地位にあつたものである。株式会社の取締役は、株主総会の決議によつて選任されたものであり、会社の経営を株主から委任されたものであるから、会社財産の運用については、善良な管理者の注意義務を負うべきものであり、この義務に反して会社財産を横領、費消又は使途不明にした取締役は、その損害を賠償しなくてはならないのである。

原告が述べているように、原告が訴外高井に対し被害金額の賠償を求め、その請求が裁判所で容認されなかつたことは認められるが、原告が右の訴訟で請求した金額及び裁判所で認められた金額は左のとおりである。

<省略>

右訴訟が原告の敗訴に終つた理由は、右に表示したとおり原告の主張がしばしば変つたことと、証拠不十分とによるものであつて、原告の請求が容認されなかつたという理由によつて、訴外高井が横領、費消又は使途不明にした金額が係争事業年度の課税利益でないという原告の主張は正当でない。

又原告は、昭和三十年に高井から弁済を受けた五十二万四千二十円は同年度の利益とされるべきであつて、係争事業年度の利益ではないと主張する。しかし高井は昭和二十五年十二月十一日頃、自己が保管中の原告会社の金員五十二万四千二十円を岐阜市加納本町株式会社十六銀行加納支店において高井精司他架空人等数名の個人名義定期預金として預け入れ(その動機について高井は、「会社の税金を少しでも安くするため」と述べている)着服横領したものであるが、右定期預金には、高井により昭和二十五年十二月十九日頃、右銀行に対する原告会社の債務のため、担保権が設定され、該担保権が存続する限り、みだりにその引出等の処分行然をなし得なかつたもので、このような事情の下においては、昭和二十五年度に五十二万四千二十円の損失が発生し、その弁済によつて昭和三十年度に同額の利益が発生したという、原告の主張は正当でない。

(2) 原告の主張(五)について、

訴外岐阜南税務署長が原告に対し昭和二十六年十二月二十七日頃原告主張の如き源泉徴収所得税、本税、重加算税及び利子税延滞加算税を課したこと、右税金が原告主張のような経過で完納されたこと、被告が昭和三十三年二月十日右課税を取消す旨の審査決定をなし右納付金及び利息を原告主張の頃、原告に還付したことは認める。その余の主張はこれを争う。

すなわち認定賞与の処分は法人所得の処分であつて右処分が取消されたとしてもそれは社外流出処分が社内留保処分に変つただけであり、法人所得として加算した各項目はすべて税法上のいわゆる積立金を構成することとなり法人の所得自体には何らの影響を及ぼすものではない。よつて被告が前記認定賞与の取消をしたことは法人所得の処分の結果が前記高井の所得とはならないことを示すだけでのことで、同人により費消又は使途不明にされた金額が法人所得の計算損金になるか否かという問題とは無関係の事柄であり、原告の主張は失当である。

四、被告の主張に対する原告の答弁及び反対主張

(一)  被告の三の(二)の(1)の主張に対する答弁

申告所得金額は被告主張の通り

(イ)のうちb、c、dの合計五千四百二十二円の減価償却超過は認めるが、aの五百四十円は土地借入権利金三万二千四百円の六十分の一を計上したものである。

(ロ)、(ニ)、(ホ)のc及びdについては被告の主張を認める。

(ハ)の当座預金洩十二万七千二百十八円については不知。

(ホ)のa工賃七万円、b電力代六万円は、いずれも当期の未払金である。

申告所得金額から減算した分については被告の主張を認める。

(二)  被告の三の(二)の(2)の主張に対する答弁

申告所得金額は被告主張の通り

(イ)、(ロ)のb、(ハ)、(ホ)、(ヘ)、(ト)のa、b、c、d、fについては、いずれも被告の主張を認める。(ロ)のaの五百四十円(土地の減価償却)については、前項(一)に述べたとおりである。(二)の未経過利息五千四百五十五円、(ト)のeの仮払金洩三万円については不知。

(チ)の支払手形十五万七千八百八十五円については、被告の主張を否認する。原告は渡辺芳一に支払手形十万一千八十五円を、富士工業研究所に支払手形五万六千八百円を振出交付しているから、手形債務を負担している。

申告所得金額から減算した分については、被告の主張を認める。

(三)  原告代表者は被告主張の加算金の存在を知らなかつた。

これらの金員は原告会社の元代表取締役訴外高井精司が横領、又は使途不明にしたものであり、そのうち左記の百十四万二千二十八円について、原告は右高井の不法行為又は不当管理行為により損失を蒙つたとしても、同人を被告として同額の損害賠償請求訴訟を岐阜地方裁判所に提起した。

(あ) 被告主張の三の(二)の(1)の(ニ)の仮払金洩 二十一万五千円

(い) 同(ホ)の未払金不当中cの四万二千九百八十円及びdの五万六千八百円

(う) 被告主張の三の(二)の(2)の(ヘ)の定期預金洩 八十二万五百八十七円中二十九万六千五百六十七円(差額の五十二万四千二十円は昭和三十年に高井から弁済を受けた)

え 同(ト)の仮払金洩中、a、b、c、d、fの合計金五十三万六百八十一円

右合計金百十四万二千二十八円

(四)  しかしながら、原告の右請求は一審岐阜地裁、二審名古屋高裁においていずれも棄却され、最高裁に対する上告も棄却されて、原告敗訴の判決が確定した。

仮に右請求が認容され、かつ損害が回収された場合には、当然原告の利益として課税されるべきものであるが、それも回収年度の課税対象とすべきものであり、昭和二十五年度の利益として課税されるべきものではない。

従つて前記の如く、敗訴により回収不能となつた金百十四万二千二十八円及び昭和三十年に弁済を受けた金五十二万四千二十円の合計百六十六万六千四十八円は、係争事業年度の利益とはならないにもかかわらず、これを同年度の利益として課税した処分は違法である。

(五)  かりに以上の主張がいずれもその理由がないとしても、訴外岐阜南税務署長は原告に対し昭和二十六年十二月二十七日頃前記訴外高井精司が横領若しくは使途不明にした総計百四十二万五千百七十五円につき、右は認定賞与であるとし源泉徴収所得税本税六十四万七千五百八十六円重加算税十六万千五百円利子税延滞加算税十九万二千九百六十円合計百万二千四十六円を課税した。しかして原告の滞納により会社社屋たる営業所及び工場を差押え競売に付したが、当時原告には百万円余の現金はなく、また社屋を競売にされれば時価より安く落札されることは必至であるから、税務当局と打合せの上任意売却することとし右社屋を第三者に売渡しその代金をもつて右納税を完了した。そのため原告会社は営業の基礎たる社屋を失い結局解散のやむなきに至り現在清算中である。ところが税務当局は右認定賞与の不当を認めて昭和三十三年四月三日本税百万二千四十六円、同月十六日右納付税金を利息七十万千八百円の金員を原告に送金して右税金を還付した。従つて前記高井の横領若しくは使途不明にした金員は認定賞与に該当するものではなく、原告の債務の支払いであり原告う損金、必要経費として支出したものである。よつて認定賞与に相応する利益が原告にあるものとして本件法人税を課したことは不当である。

第三、立証

原告訴訟代理人は甲第一ないし第六号証、甲第七号証の一、二、甲第八号証の一、二、甲第九ないし第十二号証を提出し、原告代表者の尋問の結果を援用し、乙第一ないし第六号証(乙第六号証については原本の存在を含む)、乙第十一及び第十二号証乙第十六号証の各成立を認め、乙第十九及び第二十号証の各原本の存在及び成立を認め、乙第七ないし第十号証、乙第十三ないし第十五号証乙十七及び第十八号証の各成立は不知と述べ、

被告指定代理人は乙第一ないし第二十号証を提出し、証人原田寛の証言を援用し、甲第一ないし第六号証、甲第七及び第八号証の各一、二、甲第九及び第十号証の各成立は認め、甲第十一及び第十二号証の成立は不知と述べた。

理由

一、原告が製菓業を営んでいたが、昭和二十七年五月十五日解散したこと、本件課税処分の経緯並びに第一係争事業年度の申告所得金額に加算したもののうち、

(一)  土地に対する減価償却超過金五百四十円(三、被告の主張中、(二)の(1)の(イ)のa)

(二)  当座預金洩金十二万七千二百十八円(右同(二)の(1)の(ハ))

(三)  工賃金七万円及び電力代金六万円合計金十三万の未払金不当(右同(二)の(1)の(ホ)のa、b)

第二係争事業年度の申告所得金額に加算したもののうち、

(四)  土地に対する減価償却超過金五百四十円(右同(二)の(2)の(イ)のa)

(五)  未経過利息金五千四百五十五円(右同(二)の(2)の(ニ))

(六)  仮払金洩金三万円(右同(二)の(2)の(ト)のe)

(七)  支払手形不当金十五万七千八百八十五円(右同(二)の(2)の(チ))を除くその余の点については、いずれも当事者間に争いがない。

二、そこで以下、当事者間に争いのある右の諸点(第一、第二係争事業年度の各申告所得金額に加算されたものの内、右の諸点に除くものが正当であることは明らかである)について元ず判断する。

(一)について

成立に争いのない甲第一号証、証人原田寛の証言によれば、原告は建物所有の目的で借地権を取得し、その後借地上に建物の建築その他の設備をするため、整地費として三万二千九十一円五十銭の支出をなした上、右借地の耐用年数を三十年と仮定して、決算期(半年)毎にその敷地費の六十分の一ずつを減価償却費として計上し、第一係争事業年度において、右敷地費につき五百四十円の減価償却をなしていることが認められ、右認定に反する証拠はない。

然しながら、法人税法上減価償却の認められるのは有形及び無形の固定資産に限られ、整地費については減価償却が認められないのであるから、整地費について減価償却をなしこれを減価償却費として計上している原告の計算は妥当ではない。従つて被告がこれを否認し、申告所得金額に加算した措置は相当である。

(二)について

前記甲第一号証、証人原田寛の証言、同証言により真正に成立したことが認められる乙第七、八号証を綜合すれば、原告は第一係争事業年度の当座預金の期末残高を金一万六千七百六十八円九十銭の赤字として貸借対照表の負債之部に計上しているけれども、訴外株式会社十六銀行加納支店の原告名義の当座預金の右期末残高は金二十八万三千三百四十円七十八銭であり、且つ原告の帳簿上第一係争事業年度中に支払記帳してある振出小切手で訴外銀行の支払記帳が翌事業年度になつているものの合計が金十七万二千八百九十一円二十銭となつていることが認められ、右認定に反する証拠はない。

従つて原告の当座預金洩れは左の計算により金十二万七千二千十八円(円未満切捨)となり、被告がこれを申告所得金額に加算したのは相当である。

283,340円78銭-172,891円20銭+16,768円90銭=127,218円48銭

(三)について

証人原田寛の証言、同証言により真正に成立したことが認められる乙第十号証によれば、原告は未だその支出がないにも拘らず昭和二十五年六月三十日既に支出したものとして同年七月分の工賃金七万円及び電力代金六万円合計金十三万円を負債に計上していることが認められ、右認定に反する証拠はない。従つて被告が第一係争事業年度の未払金不当として右金十三万円を申告所得金額に加算したのは相当である。

(四)について

成立に争いのない甲第二号証、証人原田寛の証言によれば、原告は前記(一)についてと同様整地費につき減価償却をなし、第二係争事業年度においても整地費について五百四十円の減価償却をしていることが認められ、右認定に反する証拠はない。

然しながら、法人税法整地費について減価償却が認められないこと(一)についてと同様であるから、これを減価償却費として計上している原告の計算は妥当ではない。従つて被告がこれを否認し、申告所得金額に加算した措置は相当である。

(五)について

証人原田寛の証言、同証言により真正に成立したことが認められる乙第十一、十二号証によれば、原告は第二係争事業年度末において前記訴外銀行支店から左の金員を借入れていたことが認められる。

<省略>

ところで、同証言によれば銀行が手形貸付を行う場合通常手形金より貸付利息を控除し、その残余の金員を割引依頼者の預金に組入れることになつていることが認められ、これによれば本件においても右手形借入に対する利息は借入月日から支払期日まで所定の日歩により計算した金額を差し引かれていることが推認出来る。

而して法人税法上各事業年度の所得の計算は翌事業年度の経費に属するものを除外してなすべきであるから、右の手形借入の際の支払つた利息のうち翌事業年度の日数に対応する分は未経過利息として翌事業年度に繰り延ばすべきである。

そうすると未経過利息計算の基礎となる未経過日数は

<1>については十五日間(一月一日から同月十五日まで)

<2>については十五日間(一月一日から同月十五日まで)

<3>については二十五日間(一月一日から同月二十五日まで)

であるから、計算上

<1>については 千三十五円 <省略>

<2>については 四千九十五円 <省略>

<3>については 三百二十五円 <省略>

の合計五千四百五十五円は翌事業年度に組入れらるべき未経過利息として第二係争事業年度の経費から除外さるべきものであり、これを申告所得金額に加算した被告の措置は相当である。

(六)について

証人原田寛の証言、同証言により真正に成立したことが認められる乙第十八号証によれば、原告は昭和二十五年十二月三十日訴外岐阜食料事務所から部会費前渡金三万円の払戻しを受けたけれども銀行預金等に振り向けることなく他人に貸付けるか又は使途の不明なものに費消していることが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

さすれば、これを仮払金洩れとして益金に加算した被告の措置は相当である。

(七)について

右のうち渡辺芳一に対する支払手影金十万一千八十五円について、原告は訴外渡辺芳一か原告のため立替えた経費等を支払うため昭和二十五年十二月三十日付で十万一千八十五円八十七銭の手形を同訴外人に支払つたものであると主張し、成立に争いのない甲第二号証にはこれに添う記載があるけれども、証人原田寛の証言、同証言により真正に成立したことの認められる乙第十四、十六号証によれば、昭和二十五年十二月三十日現在原告の預金は右手形金を一挙に支払うべき経済的余力がなかつたこと、右渡辺芳一は当時月九千円位の給料で生活しており、到底会社に対し十万円を越える金員の立替え払いをなし得るほどの余裕がなかつたこと及び右手形金額が支払期日頃右渡辺芳一に対して支払われた形跡がないことが夫々認められ、右事実からすれば原告はその負担すべき経費を既にその都度別途売上から支払済みであるのに、右渡辺芳一が立替え払いしたかの如く仮装して昭和二十五年十二月三十日右訴外人に対し手形を振出したものであることが推認できる。

また訴外富士工業株式会社に対する支払手形金五万六千八百円については、原告は訴外富士工業研究所に対し支払手形五万千六八百円を振出し交付したものであるから原告は各手形債務を負担している旨主張するけれども、証人原田寛の証言、同証言により真正に成立したことが認められる乙第十三号証によれば、当事者間に争いのない訴外富士工業研究所に対する第一係争事業年度中における未払金の過大計上分五万六千八百円(前記三、被告の主張中、(二)の(1)の(ホ)のd)を第二係争事業年度において支払手形に振替えたものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。

してみれば前記訴外渡辺芳一に対する支払手形金十万一千八十五円及び右訴外富士工業株式会社に対する支払手形金五万六千八百円合計金十五万七千八百八十五円について益金に加算した被告の措置は相当である。

三、原告は被告主張の加算金中、百十四万二千二十八円については元原告会社の代表取締役訴外高井精司の不法行為又は不当管理行為により損害を蒙つたものであつてこれを益金に加算してなした被告の本件課税処分は違法である旨主張するけれども、被告主張の加算金はすべて認められること前記のとおりであり、且つ原告が主張する右高井精司に対する不法行為又は不当管理行為に基く損害金の請求は、訴訟上すべてその理由がないものとして棄却され、原告敗訴の判決が確定していることは当事者間に争いがない。そうすると、原告の右高井精司に対する損害賠償請求権が存在することを前提とする右主張は失当である。

又、原告は昭和三十年に右高井精司から弁済を受けた五十二万四千二十円については回収年度の利益として課税さるべきであるにも拘らず昭和二十五年度の益金に含まれるものとして課税した本件処分は違法である旨主張するけれども、原告が右高井精司に対して有する債権が当該年度において回収不能とは認められない以上、これを損金に算入し得ないと解すべきところ、本件における全証拠によるも右債権が回収不能となつたものとは認められず、却つて昭和三十年に原告は右高井精司から右金員の弁済を受けたことは弁論の全趣旨に徴し明らかであるから、被告がこれを本件各係争年度の損害に算入しなかつた措置は相当である。

原告の右各主張はいずれもその理由がない。

四、原告は訴外岐阜南税務署長が原告に対し認定賞与の処分をなしたところ被告がその後右処分を取消し納税金を原告に還付したが、右事実は結局認定賞与に相応する利益が原告にないことを示すものであるから本件課税処分は違法不当である旨主張し、被告は右認定賞与の取消は法人所得の処分の変更だけであり、法人所得自体には何らの影響はなく原告の主張事実は本件課税処分と関係がない旨争うので判断する。

訴外岐阜南税務署長が原告に対し昭和二十六年十二月二十七日頃原告主張の如き源泉徴収所得税本税、重加算税利子延滞加算税を課したこと、右税金が原告主張のような経過で完納されたこと、被告が昭和三十三年二月十日右課税処分を取消す旨の審査決定をなし右納税金及びそれに対する利息を原告主張の頃原告に還付したことは当事者間に争いがない。

原告は右認定賞与の取消は結局原告に右認定賞与に相応する利益がないことを示すものである旨主張するが、原告の利益金として被告主張の加算はすべて認められることは前記認定のとおりであり、本件における全証拠によつても原告の右主張を認めるに足る証拠はなく、原告の右主張は理由がないものといわなければならない。

五、してみれば岐阜南税務署長が原告に対してなした本件各係争年度の課税処分は適法であり、これと同趣旨に出でた被告の審査請求棄却の決定もまた適法であるから、原告の本訴請求は失当として棄却を児れない。以上の理由により民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 布谷憲治 裁判官 藤原寛 裁判官 植田俊策)

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